1週間で強くなる

 今から約40年前私はメキシコオリンピックのフリースタイルのヘッドコーチだった。結果は選手達が大健闘し東京オリンピックと同じくフライ・中田、バンタム・上武、フェザー・金子が金メダルを取った。
 フライ級で金メダルを取った中田は私の大学の後輩であり一年生の頃から練習相手であった。そんな関係もありコーチといえどもまだまだ強かった私に練習では分が悪かった。その中田が選手村に入ってから突然強くなり私が必死になっても歯が立たなくなった。足を取っても倒れないし、取られた足は引きつけられ動きが取れなくなった。中田とは何年も練習をしてきたがこんな中田は初めてだった。中田は一週間ですざましく強くなったのである。この時私は中田の金メダルを確信した。
 ロンドンオリンピックが間近に迫ってきた、選手諸君は最後の猛練習と作戦の構築に明け暮れている。リンピックともなれば各選手、対戦する選手達もほぼ分かっているし試合展開も予想できるだろう。
 ラウンドの2分間は短いようで長い。スタートの30秒とラスト15秒をどの様に使うかが勝敗の鍵を握る。
 レスリングは格闘競技の中で相撲に次いで試合時間が短い。相撲のように一瞬にして勝負が決してしまう訳ではないが、ボクシングの様にラウンド毎に作戦を変更できる時間もない。その場その場の流れに対応しながら一瞬を捕らえて技を決めるのは並大抵なことではない。こちらが掛ける技は相手はほとんど分かっている。その上で技を決めるのだからまさに渾身の決め技なのである。相手も当然同じように全力で技を仕掛けてくる。2分間に両者の駆け引き凌ぎ合いがぶつかるのである。レスリング試合はこの様な厳しい試合なのであるから、最後に勝敗を決するのは必勝の信念と勇気だ。選手諸君まだ時間は十分にある。金メダル取る為に一週間あれば十分である。



 
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