懐かしい街

 文京区春日町の中央大学理工学部で教授が刺殺された。学内で起こった事件だけにショッキングな事件である。
 私が中央大学に通っていた昭和30年代は春日町校舎にはまだ理工学部はなく、運動場とレスリング部、相撲部、ボクシング部、重量挙部、バレー部、テニス部、音楽研究部があった。それぞれの運動部はいずれも学生スポーツ界の頂点に立っており幾多の名選手を送り出していた。
 レスリング部は宿泊所と練習所が一体になった道場が昭和30年に設立され、世界一と言われた質の高い激しい練習が行われていた。私は文京区の高校に通っていたこともあり、高校時代から中大道場に通い大学を卒業しても2年間レスリングを続けていたので、十年以上春日町中大レスリング道場に通っていた。水道橋から35番の都電に乗り富坂坂上で降りると一帯が中央大学運動部村であった。
 ゴールドメダリストはレスリングの石井庄八、笹原正三、池田三男、渡辺長武、ボクシングの桜井、田辺、さらにバレーも全日本の半分ぐらいは中大であったし、相撲部には後の関脇豊国もいた。音楽部もスイングバンドが有名で、後に芸能界で活躍したダン池田、谷啓、高木ブー等も音楽研究会にいた。
 その後、運動部は全て八王子校舎に移転して、理工学部の大きな校舎が何棟も建ち様相は一変してしまったが、まさに青春時代を送った春日町、富坂、伝通院は隅から隅まで分かる懐かしい街である。思いも寄らぬ悲惨な事件をきっかけに懐かしい街を思い出すのも悲しいことである。

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