ゴールドメダリスト金子正明

 先日、文部科学省副大臣松浪健四郎氏のパーティーで久しぶりに金子正明氏に会った。金子正明氏は専修大学で初めて金メダルを取った男である。金メダルを取ったメキシコオリンピックでは私がヘッドコーチを務めていたので、彼の涙に暮れた優勝の感激が手に取るように分かった。
 思い起こせば、東京オリンピックの前年、プレオリンピックに優勝し代表選手確実と言われたフライ級今泉雄策、バンタム級金子正明、フェザー級渡辺長武等の日本代表選手団は長期のバルカン遠征に出かけた。私と金子は常に同室で共に減量が激しかったので、他の選手達とは別行動で連日夕食は取らずに、風呂に入ったり、夜中に走ったりして減量の毎日であった。当時はあまり辛かったとは思わなかったが、共に頑張った金子との仲は格別のものとなった。
 その二人が大番狂わせで東京オリンピックの代表からはずれたのである。金子は選手生活を続け私は引退した。そして四年後のメキシコでは二人は選手とコーチという立場でオリンピックに参加したのである。四年間辛苦に耐えた金子は金メダルを取った。一番高い表彰台で君が代を聴き大粒の涙を流した金子の姿を見て、俺も選手を続けていれば、と悔しく思ったことを今でもはっきりと覚えている。
 金子は静かな守りの男である、しかしうちに秘めた闘志はすざまじく、決して自己のスタイルを変えなかった。コーチには評判の悪かった攻めないレスリングを貫き代表となり、オリンピックの決勝では強豪イランを圧倒的に攻めまくり有終の美を飾ったのである。
 その後金子は自衛隊からフジテレビ迎えられ、今は専修大学の0B会長をしている。頑固に変えなかった、守りからチャンスを作る金子のレスリングは、今のルールのクリンチからの攻防に大変参考になるのではないかと私は思っている。
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