親父と息子

 私の父は一昨年92歳で亡くなりました。明治、大正、昭和、平成と4つの激動の時代を生き抜き大往生でした。子供の頃の親父はただ怖いばかりでしたが、5人の子供を無事に育てて、私が家庭を持った頃には優しい頼りになる親父になっておりました。しかし、我々の時代、親父と息子の会話はなどというものは、「大丈夫か」「うん」「親父、元気か」「ああ」などといったぐらいのものですましてしまう事が多いようです。私は学生時代親父と帰りが一緒になっても、用事があるからと言って違う道で帰ったり、知らぬふりをして角を曲がったりした事が何度かありました。父と息子というのはお互い思い合っていても、端から見ると素っ気ない仲のようです。
 先日、韓国の友人の権さんが長男を連れて日本に来ました。奥さんと次男は韓国に置いて、長男と二人だけの旅行です。長男はソウル大学3年生の秀才で実に好青年です。秋葉原、新宿、そして大学院に行きたいと言っていた東大を2人でゆっくり、買い物したり散策したりしたそうです。明日は万博に行くというので、私と3人で食事をしました。息子と親父はほとんどしゃべりませんでしたが、ニコニコとしてお互い優しい眼差しでした。
 聞けば10月から徴兵で2年間軍隊にはいるそうです。権さんは徴兵前に長男と2人で旅行したかったのでしょう。私が「大変だね」と言うと権さんは、「何のことはないさ、2年経ったら逞しく成って帰ってくるさ」と言い、華奢な秀才息子は「僕だって子供の頃はテコンド−をやっていたのだから、軍隊ぐらい大丈夫さ」と言っていました。今の日本人には味わえない、何とも言えない父子の思いが感じられた夕食でした。
 万博では我々の友人である名古屋の西君が2人を接待する事になっています。
 
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