優しい娘

新幹線で大阪に行くときの事である。隣の席に七十歳過ぎと思われるおばあさんが娘さんに連れられて乗ってきた。「お母さん此処が席だからね、トイレはあっちだよ。名古屋に着いたら必ずお姉ちゃんが迎えに来るからね。万一お姉ちゃんが遅れても降りたところから動いちゃ駄目だよ。心配しなくて良いからね。」たぶん田舎から出てきた母親なのであろう。娘さんは心配でしょうがないようだ。「大丈夫だよ。心配しないで早く行って、心配要らないから。」と母親は言って娘を促した。娘さんは振り返りながら列車から下りて行き、ホームに降りてからも窓際で手を振り、なにかを語りかけていた。新幹線はあっと言う間にホームを離れて行ったが、お婆さんは立ち上がって何度もお辞儀をし、有り難う。有り難う。と声に出して娘に礼を言っていた。駅は、出会い、別れ、昔からドラマが生まれる場所だ。こんな光景は何処にでもある光景だが、何か美しいものを見たような気がした。
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