昔のヨーロッパ遠征での出来事 |
「東京五輪グレコ57Kg金メダリスト」市口政光東海大学教授は左一本背負投げの名手でした。どんな相手と対戦しても、ひつこくひつこく相手の腕をたぐり、次第によい態勢を作り上げ乾坤一擲全勢力を左腕に集中して投げるのです。実によいタイミングで相手を投げ捨てるといった投げ技でした。 ヨーロッパ転戦中、ある国でその国の英雄と対戦したのですが、両者互角で全くのノーポイントでしたが、最後に市口の一本背負いが決まり試合が終わりました。ところが判定は相手国英雄の勝ちでした。市口の勝利は誰が見ても歴然としており、どのように贔屓しても市口の一本背負い意外はポイントらしいものは何もないのです。あのような試合をどうして自国の勝ちに出来るのか、更に酷いのはレスリングを熟知している観衆が、このでたらめの判定に大喜びするのです。まだ若かった私たちはまったく理解できない出来事でした。 次の国でも、こんな事がありました。レスリング界の貴公子、「中大78Kg世界3位」兼子隆選手が圧倒的に攻め、大差のついた試合でした。相手は何度も首、腕、足の痛みを訴え、その都度、看護婦が治療に当たりました。誰が見ても演技で有ることは明白です。後半、兼子選手の股裂きに、またも倒れたままでストップを求めたので、兼子選手が軽く相手の尻を叩いたのです。レフリーは試合を中断すると、なんと兼子選手の反則負けを宣しました。これはレフリーの判断だから致し方ないでしょう。しかし理解できないのはその後です。観衆は大喜びし、その選手は観客席にいた彼女と喜びのキッスをしているではありませんか。我々にはまったく理解できない感性でした。 八田会長がいみじくも言っておりました。立派な敗戦などと言うことは彼らには分からない。勝つことが一番立派な事なのだ。日本人はルールが無くとも戦いが出来る。試合が出来る。ヨーロッパ人にはこういう感性は理解できないだろうと。 |