タックルについて
 
 レスリングの立ち技の中でもっとも有効な技であり、かつ難しいのがタックルである。タックルは崩しから始まり、様々な変化があるが、大きく分けて両足タックルと片足タックルに分けられる。私は片足タックルが得意であった。というより片足タックルしかできなかったと言って良いレスリングだった。しかし、片足タックルをマスターすると両足タックルも出来るようになった。タックルは勇気のいる技なので、初心者がタックルを覚えるには、片足でも両足でも、もっともやりやすいタックルから練習すべきだと思う。あまり形にとらわれず、相手の懐に飛び込む事が出来る、相手の足をつかむことが出来るタックルから覚えるべきであろう。
 
片足タックル
 人間は二本の足で立っているのになぜ倒れないのか。世の中に二本足で立っているものは動物に限らず人間をおいて他にない。ではなぜ倒れないのか考えてみよう。
 人は歩む事により体重の移動を行い、常にバランスを保って居るから倒れないのである。 それなら相手を倒すためには歩めなくしてしまえばよい。簡単なことだ。ではどうして歩めなくするか。一番手っ取り早い方法は片足を取りもう一方の足を払えば間違いなく相手は倒れる。この辺を原点に片足タックルを考えてみよう。
 片足タックルは、両足に比べれば取りやすいタックルだ、しかし取っても倒すまでが大変なのも片足タックルだ。片足ぐらい取られても一流選手は絶対に倒れない自信を持っている。これを倒すのが技であり、片足タックルの面白さだ。考えて見よう。足を取ったものと取られたものとどちらが強いか。勿論取ったものが強いに決まっている。しかし、その体勢やその後の対処の仕方によりにより、取られた者の方が強くなってしまう場合もある。そこがレスリングの難しさであり面白さである。だからこそ、まず足を取った者の方が絶対に強いのだ、ということを確信して片足タックルを研究して貰いたい。

片足タックル物語
 私が昭和29年からレスリングを見てきた経験からして、片足タックルが一番上手かったのは現新潟協会会長の飯塚実氏だったと思う。飯塚氏のタックルは低い体勢から左右まったく同じタイミングで入る素早いもので、片足をつかんでからは自らの体勢を整え、身体の力を抜いて、取った相手の片足に全体重を乗せ、次の技を掛けるチャンスをじっと待つ、といったタックルで、最近では見ることが出来ないとぎすまされた片足タックルだった。原理的に言えば少し難しいが、「寝た子は重たい」と言ったところだろう。昭和30年代、飯塚氏の片足タックルには、明治大、諸戸、寺田、慶応大、大沢、中央大、風間、日本大、池田、等の強豪もまったく歯が立たなかった。飯塚氏はメルボルンオリンピックでは笹原正三氏と並んで当然優勝すると思われたが、試合前に怪我をしてメダルを逸した。その後、飯塚氏の片足タックルは新潟の高校生の得意技となり、大学に進んだ明大、石沢二郎、田村英司、中大、風間貞勝、等の名選手に受け継がれ、上武洋二郎の「東京・メキシコ、2大会連続金メダル」に代表されるように後の日本軽量級の得意技となっていった。片足タックルはレスリングの面白さを最も感じる技である。
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