易しいレスリング 楽しいレスリング
 
 レスリングの練習は辛い、レスリングの技は難しい、これはレスリングをやった者が皆な感じたことだ。十年間レスリングをやっても満足にタックルをマスター出来ずに選手生活を終わったと言っている選手も沢山いる。技とは実力の同等かそれ以上の人にその技が掛かってこそ技であり、そういう意味では格闘競技の技を完成させるということは無いのかもしれない。一流選手になればこの技なら誰にでも掛けることが出来ると言う得意技を一つや二つ持っているが、何度も対戦したことのある実力同等の選手にはなかなかその技もかからなくなる。しかしかつての名選手、笹原正三、渡辺長武、高田裕司の技は誰にでも何時でもかかった、まさに完成された名人技であった。
 日本においては、初心者にレスリング教える場合、まずタックルから教えるのが普通だが、初心者指導用の確たるマニュアルはない。対面した相手を倒すにはタックルが最も有効な技であるが、しかしタックルは難しい、両足、片足、いずれにしても攻撃のタイミングを覚えるだけでも大変である。「始めから正しいタックルを正確に教えておくべきである」ことは勿論大切なことだが、初心者でも出来る易しいタックル攻撃を指導することも必要だと私は考える。易しいタックルとは一番近いところにある相手の足を手で取るタックルだ。とかくこのようなタックルは否定されがちであり、タックルは身体で取るものというのが定説であるが、立ち技でも寝技でも初心者にもすぐ出来る技を考えて、これらの技の分かりやすいマニュアルを作る必要があると私は考えている。
 高体連はこのような指導について普及の意味も含めて検討してほしい。レスリング界には安易な技を馬鹿にする様な風習がある。とかく良いタックルとは遠いところにある相手の足を低い姿勢から飛び込んでゲットするものと考えられがちだが、これは大きな勘違いである。この様なタックルは攻撃者のバランスが崩れ易いし、相手の反撃を受けやすい。初心者のこのようなタックルは相手に待ちかまえられて潰され、反撃を受けてしまうことがほとんどである。このようなタックルを繰り返していれば初心者は「タックルとは成功しないもの、先輩に潰されるもの」と潜在的に思いこんでしまうのである。そして当初持っていたレスリングへの魅力を失い、止めてしまう者も出てくるのである。
 初心者の指導では、技を教えたり強くしたりすることと並んで、レスリングに興味を持ち続けさせ、楽しく練習を継続させることも重要なことである。
 
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