信ずる一念の力

 レスリングほど自信と精神力に左右される競技はない、と八田会長は何時も言っていた。
 「諸君は誰にも負けない量の練習をしろ、それが何よりもレスリングに大切な自信につながるのだ。へとへとに疲れた相手にまだ体力の残っている選手が技を掛ければ難なく技はかかるだろう。俺は誰にも負けない練習をした、という自信が絶対に誰にも負けない闘う精神につながるのだ。諸君、レスリングをよく考えてみなさい、同じ体重の者が何処も掴むことも出来ない裸で闘うのだぞ、そんなに差が付くわけがないだろう、差が付くのは勝利を諦めない精神力と戦い続ける体力だ。その為には日頃の必勝の精神と弛まぬ錬磨が何より肝要だ。」
 八田会長の訓辞は分かりやすく、選手達をその気にさせるものだった。しかし、一方でこんな事も言っていた。
 「意志、精神力、運…、勝敗を左右するに重要なこれらの要素は、目に見えない。凡人は目に見えるものだけを信じて闘ってきた。しかし、源義経は織田信長は目に見えないものを信じて、大軍に勝利したのではないか、練習中は勿論、飯を食うときも、糞をするときも、寝ているときも俺は金メダルを取る、と自分に言い聞かせろ、まず思え、そしてその裏打ちをする練習をしろ、諸君は必ず金メダルが取れる。」
 最近、信仰と科学との共通点の研究が米国有名大学でなされていると聞く。ダライラマは科学的に肯定される教義は沢山あると言っている。祈る事は地球上のあらゆる民族がそれぞれの宗教で行ってきた行為だ。辛い練習に耐えられるように、誰にも負けない強い意志を持てるように、目標を定め諸君は祈れ、民族の文化である祈りには絶対に目に見えない真理があると私は思っている。

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