八田式「帰納法」

 八田会長は、私の考え方は「帰納法の応用」である、と言ったことがある。
 これを簡単に言えば、目的をしっかりと掴んでおけ、ということだ。この考えは完成した結果をまず想定して、逆にどうしてそうなったかを解きほぐしてゆく方法だ。
 建物を造る場合、普通は地盤固めから順々に作ってゆく。しかし、逆に上から作ってゆくものもある、それは蜂の巣だ。私の考えは蜂の巣論だ。私の場合まず金メダルを取ったことを考える、そして、どうしたら金メダルにたどりつけるかを、逆に順々に出発点に向かって考えて行き、強い選手を育てるために必要な要素、素材、教育と考えを纏めてゆく。この考え方で行くとゴールが先に見えているのだから、やらなくて良いつまらぬ事、必要でも今はしなくてもよい事があぶり出されきて、最短距離で目的に到達できる。つまり、強化には金がいる、しかし予算がない、等と詰まらぬ事を言っていないで、金は借りてきてでもとにかく強化しろ、借金の返済は、試合に勝ってから考えろ。と、このようになる。一見、乱暴な理論だが最短で目的を達成しようとするにはこのぐらいのことは必要だ。昔から戦争は全部この理論で戦費を調達するのだ。私にとってレスリングは宗教であり、試合は戦争である。
 八田会長は心底そのように思っていたようである。
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